【Chef's advice】特別番外編「おいしいものが結ぶ友情」坂本龍一さんとの"食"の思い出~中山豊光シェフ

今回は、特別番外編。

「おいしいものが結ぶ友情」

 

今回は、先月ご逝去された、坂本龍一さんと、いつもおいしいものを伝えてくださる中山シェフの食が繋いだあたたかい交流のお話をお伝えします。

 

中山シェフが、Instagramで、坂本龍一さん(以下、坂本さんとさせていただきます)とのお二人の写真をアップされました。シェフのおいしいお料理を坂本さんも召し上がったのだなあと思って、ぜひそのときのエピソード伺えましたらと、今回特別にお話を聞かせていただき、特別番外編とさせていただきました。

お話を伺うにつれ、おいしいものが繋いだ交流が、とても素敵であたたかいものだったので皆様にご紹介させていただきます。

 

シェフと坂本さんとの出会いは、いつ頃でしたか?

 

だいぶ前なのですが、ちょうど坂本さんがパリで映画の撮影をされていたとき、スタッフの方々とはじめて、お店にいらしてくれました。

でも、その日はとても忙しい日で、僕は一言もお話できなかったんですよ。

 

そのあとも何度かお店に来てくださったのですが、なかなかお話もできなくて。

 

と、シェフ。

 

お話をするきっかけはどのようなことだったのですか?

 

坂本さんがご病気になられて、1年くらいした頃だったと思います。

ご本人からご連絡があり、またパリに行くので、伺いたいと。

でも、ご病気の後で、食事制限があって、食べられないものがたくさんあったんですよ。

 

それならば、店がお休みの日にいらっしゃいませんか?

坂本さんが食べられるお料理を、お好きなお料理をお作りしますよ。

お休みなので、僕もふだん着で、ワインでも飲みながらお作りしますから、

ゆっくりやりませんか?

と、お誘いしたんです。

 

なんとも、中山シェフらしいエピソードです。

そんなふうに、お二人の関係はスタートしました。

 

そのことがきっかけで、坂本さんはパリにいらっしゃるたびに

シェフのお料理を食べにいらしたそうです。

 

どのようなものをつくられたのですか?と、お聞きすると

 

すごくシンプルなものですよ。

しゃぶしゃぶみたいなもの。

 

しゃぶしゃぶですか?

 

お肉はあまり召しあがれなかったから、

季節の野菜や、白身の魚をさっと湯通しするというよりは、

80℃くらいの出汁にドボーンといれる。

鍋の温度は低い方がいいんです。

それを何種類ものタレを用意して、好きなものを好きなタレにつけて

ご自分のペースで召し上がっていただくことが多かったです。

おいしいお豆腐や、すり身などもつくって、ハーブ類もたくさんご用意しました。

香りで食欲もでてきたりしますから。

身体に優しく、元気になるもの。

そう、薬膳料理みたいですよ。

これは、賢三さん(故 高田賢三さん)が、ご病気のときにもよく作りました。

 

と、シェフ。

 

余談ですが、

パリのお店のシェフのお料理は、本当にいつもおいしいのです。

それも、お一人お一人のその日のお顔をカウンター越しに見て(「診て」というのに近いかもしれません)作る料理や食材、味付けなども微調整されます。

常連のお客様だと、献立もかえたり、まさにパーソナルなお料理でもあり、

その日の体調を整えてくださる心のこもったお料理なのです。

 

坂本さんは、どんなお料理がお好きだったのですか?

 

お元気な時は、本当になんでもよく召し上がりましたよ。

お肉もお魚も、お酒もよく飲まれました。

特にお好きなものは澄んだものがお好きでした。

例えば、出汁のきいたお吸い物のようなお椀などはお好きでしたね。

 

シェフの心のこもった、あったかいお料理に、きっと坂本さんのお身体も

心も癒されたのでしょう。

同時に、交流もとてもあったかいものになっていきました。

 

お正月や誕生日には、いつもメッセージをくださって、

僕もメッセージを送ったり。

パリでの公演のときには、僕の妻や娘をコンサートにご招待くださったりしました。

 

シェフからみて、坂本さんの音楽はどんなイメージでしたか?

 

僕は、仕事もあってなかなかコンサートにはいかれなかったのですが

CDはいつも送ってくださいました。

2011年の震災のあと、音楽が変わりましたね。

壊れたピアノで演奏するとか、なにか哲学的な方向に変わったように思いました。

個人的には、スネークマンショーの時代の音楽が好きです。

昔は、コント。知的なコントをお店でもやってくださった、とてもおもしろい

でも、おもいやりのある方でしたね。

 

最後に、お会いしたのはいつですか?

 

5年前に、TOYO Tokyoがオープンしたときにいらしてくださいました。

僕も、東京のお店にいて、お料理をお作りしたのが最後だったと思います。

 

そのあとは、行きたいけれどなかなかパリに行けないというメッセージが

届きますが、それでも正月、お誕生日のあたたかいやりとりは最後まで

続いたようです。

 

今年の1月、坂本さんのお誕生日に、メッセージを送ったのが最後でした。

と、シェフ。

 

「ありがとう♡♡♡」

 

という返信が来たのが最後の交流です。

 

おいしいものがお好きな坂本さんは、きっと、シェフのお料理をもっと召し上がりたい

気持ちだったのでしょう。

 

今回の取材のあと、なにかお料理の写真を1枚送っていただけませんか?

と、シェフにお願いしました。

送ってくださったのが、このたくさんのおむすびの写真です。

 

 

(以下、シェフからのメッセージをそのままご紹介します)

コロナ禍に撮った写真です。

 

僕の幼いころに好きだった〈もち米〉のおにぎり。

年末の餅つきにしか食べることのできない思い出のお料理。

 

坂本龍一さんは、長い間食事制限で好きな物をたくさん食べられなかったと思います。

お互いの昔話でもしながら、お腹いっぱい食べていただきたい

との想いです。

 

食べる人が一番喜んでくれるようなお料理を、いつも作りつづけている中山シェフのやさしさ溢れるメッセージ。

 おいしいものを食べて喜んでほしいという想いで、いつも心のこもったお料理をつくってくださるシェフのやさしさに、わたしも胸がいっぱいになってしまいました。

 

 「おいしいものは、人をしあわせにする❤」

 

 

 

坂本さんに、シェフのこのおにぎりが届きますように。

 坂本龍一さんが、中山シェフに贈った最後のアルバム

 

 

To be continued!

次回もお楽しみに!

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〈文・小池美枝〉