=新連載=中山豊光の TOYO TABI #001サンセバスチャン
こんにちは。中山豊光です。
パリでレストランをやっています。
パリ6区にあるRestaurant TOYO
おいしいものって、なんだと思いますか?
僕は、おいしいものは人を幸せにすると思います。
じゃあ、そのおいしいものはどうやってつくられるか。
一番は素材だと思います。
野菜も、魚も、お肉も。オイルやバターといった調味料だって
自然がつくるもので、作り手さんがつくるもの。
もう一つは、僕たち料理家がそのおいしい素材を、おいしい料理に仕上げること。
僕は、おいしい料理は「素材ありき」だと思うんですよ。食べてもらいたい素材に最低限の調理を加える。
少なくとも、僕はそんな料理を作りたいと思っている。
そのためにいい素材を選べることが料理人の腕であり、おいしい素材と対話できることも料理人の腕かなって思うんです。
だから、僕のレシピは、素材と対話して、こんな料理はどうですかって素材に聞いて決めてるんですよ。
そんな僕の料理のインスピレーションの一つが「旅」なんです。
仕事で旅することもあるし、プライベートで旅することもありますけど
いつも「おいしいもの」は欠かせない。
そんな僕の旅、『TOYO TABI』におつきあいください。
第1回目は、サンセバスチャンの旅。
みなさん、サンセバスチャンという街をご存知ですか?
日本でもちょっとブームになったバスク地方の都市です。
フランスとスペインの国境近く、ピレネー山脈のふもとあたり、人口18万人くらいの小さな街なんだけれど、世界中からおいしいものを食べるだけにやってくるといっても過言ではないくらい、「おいしい」を求めてたくさんの人がやってくる。
僕も、何回か行きましたけれど、本当においしいものがいっぱいあるんです。
でも、不思議なんだけど、おいしいのは、いわゆる料理じゃないんですよ。
それこそ、素材を食べている感じで。
ソースをたっぷりとか、奇をてらってエスプーマ(泡)にしているとか、珍しい食材をつかっているとか、何もないの。
バルみたいなところで、チャコリ(バスク地方の地酒のようなもの)にシンプルなギンディージャ(ししとうみたいなもの)や、トマトとか生ハムとか。
ただ、それがものすごくおいしい。
パリにもないかもと思うくらいおいしいんです。
あとは、先程チャコリと言いましたけれど、お店によっては、
これもパリでも飲めないような珍しいヴィンテージのワインが普通にオンリストしていたりするんですよ。
しかもとってもリーズナブル。
一般的には、ワインは原価の3-4倍でレストランでは出すことが多いですが、サンセバスチャンは、2倍くらい。
サンセバスチャンには、いろいろな不思議があるんですよ。
メディアで書かれていたりするのは、
シェフ同志の垣根がなくて、バスク地方に根付いた「レシピ共有の文化」について。
良いレシピが出来たら、それを「秘伝のレシピ」とか「ここでしか食べられないメニュー」として門外不出にすることもあると思うのですが、バスクはその真逆で、おいしいレシピは、独自のテクニックを含めてみんなで共有することで、街の活性化を図ったというのです。
だからどこのお店もおいしいのかなって思ったりします。
あとは、「美食倶楽部」という存在。
1800年ころからできたこの美食倶楽部は、レストランなどの食のプロだけでなく、街の料理好きがキッチンに集まって(その昔は男子のみだったそう)自分たちで料理を楽しむというサークル活動のようなものがあって、それが街の活性化にもなったとかいう話も聞いたことがあります。
その流れが、バルをつくり、ピンチョススタイルもそれ以来できたということです。
もう一つの不思議なことは、僕が一番大切にしている素材のこと。
サンセバスチャンは、山・川・海と本当に自然に恵まれた食材の宝庫。
まさに地産地消の原点みたいなところ。
だからこそというのも、きっとあるんだと思う。
その素材と、料理人のマリアージュなのかな。
世界中から、このシンプル極まりない料理を食べにやってくる。
そして、観光もしないの(笑)
朝食べて、のんびりして、昼食べて、のんびりして、夜食べて、のんびり寝る。
これだけなんだけど、世界中から皆さんやってくる。
本当に不思議。
いつも来るたびに不思議だなあと思うんだけど、本当の答えはわからない。
でもね、おいしいものは人を幸せにするんだから、幸せになるからみんな来るのかなって思う。
皆さんも機会があったら、ぜひ行ってみてください。
サンセバスチャンへは、パリからだと電車でも、飛行機でも行けます。
写真は、知人のプライベートジェットで来たときのもの。
この時は、ちょっと贅沢な大人の遠足でした。
ゴージャスなホテルももちろんあるし、一方で民泊のような宿泊施設もあるから、友達たちとワイワイするのも楽しい街だと思いますよ。
おいしいものを求めて、 TOYO TABIは続く・・・